未払金回収

■内容証明郵便による通知

相手方に対して、内容証明郵便等によって金銭の請求をする手続きです。

■訴訟提起

相手方が金銭請求に対しても支払いをしない場合には、裁判所に訴えを提起する必要があります。

■財産調査

債権者は、強制執行するためには、債務者の財産状況を正確に把握する必要があります。しかし、他人である債務者の財産状況について、把握することが出来ない場合も多くあります。そこで、債務者の財産を正確に把握するために、財産開示手続及び第三者からの情報取得手続等があります。

■弁護士法23条の2の照会手続

■民事執行手続:第三者からの情報取得手続(民事執行法第204条以下)

■民事執行手続:財産開示手続(民事執行法第196条以下)

 財産開示手続きとは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続であり、債務者(開示義務者)が財産開示期日に裁判所に出頭し、債務者の財産状況を陳述する手続です。ただし、債権者は、陳述によって知り得た債務者の財産に対し、別途強制執行の申立てをする必要があります。

令和元年の改正により、債務者が裁判所の呼び出しに応じない等の場合に、刑罰が科されることとなりました。

「…財産開示期日において宣誓した開示義務者であって、正当な理由なく…陳述すべき事項について陳述をせず、又は虚偽の陳述をしたもの」(民事執行法第213条1項6号)「…に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」(民事執行法第213条1項)

 

財産開示手続は、実施決定がなされると、裁判所から債務者に送達がなされます。債務者が、この送達(呼び出し)を無視した場合、公示送達による債務者への送達が認められています。

公示送達とは、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」(民事訴訟法第110条1項1号)等になされるもので、「裁判所の掲示場に掲示して」(民事訴訟法第111条)、送達がなされます。

その結果、債務者は、わからないまま逮捕されたうえ、前科者になる可能性があります。

■民事執行手続

相手方に支払いを命じる判決等を取得したにもかかわらず、相手方がそれでも支払いをしない場合、民事執行手続きにより未払い金の回収をする必要があります。未払い金の回収方法は、複数用意されています。

■不動産執行手続

■不動産収益執行手続

■債権執行手続


強制執行の停止

■強制執行をされる理由がない場合

・何らかの手違いや人違いなどにより思い当たる節がない場合:「第三者異議の訴え」による強制執行の取消しを求める

・身におぼえがある債務であっても,強制執行の原因となる債権自体の不存在又は,無効である場合:「請求異議の訴え(債務名義に確定されている請求それ自体につき,事後の変動があったことを事由としてその債務名義の執行力の排除を求める訴え(最高裁昭和30年12月1日判決))」(民事執行法35条)による強制執行の取消しを求める。

・請求異議の訴えは、確定判決が債務名義である場合は、判決確定後の事情しか主張できませんが、確定判決以外の債務名義の場合は、成立以前の事情や成立自体の無効をも主張することができるとされています。

・しかしながら、どちらの訴えも,訴えを提起しただけでは,強制執行は停止しません。そこで、第三者異議訴訟、又は請求異議訴訟の提起と同時に「強制執行の停止」の申立(民事執行法36条1項)を行う必要があります。裁判所は「仮差押え」や「仮処分」の申立と同様に,「担保(保証金)」を供託することを条件に,「請求異議」「第三者異議」の訴訟手続が終結するまでの間、強制執行の「一時的」に「停止」を命じます。

・なお,請求異議訴訟等の結果,債務者側が勝訴すれば,判決で,強制執行を取り消す(強制執行を許さない)旨を宣言してくれますので,それを強制執行をしている裁判所に提出することによって,強制執行は取り消されることになります。以上に対して,請求異議訴訟等で敗訴しますと,一時的な「執行停止」決定の効果もなくなり,強制執行は再び手続きが進められることになってしまいます。

■強制執行をされる理由が一応ある場合

【不動産競売の申立をされた場合】

・売却決定がなされ売却先から代金が納付されるまでは強制執行をとめることができる可能性があります。

・不動産競売の申し立てをされた場合,その手続をとめるためには,事後的に請求権を消滅させる必要があり、具体的には,債務の本誌に従った「弁済」(債務元本、弁済時までの利息や遅延損害金、手続費用を含む)する必要があります。

・弁済は、通常、「義務履行地」つまり,相手方債権者の住所において,弁済金(現金か,金融機関の自己宛小切手(預金小切手))を現実に提供する必要があります。

・仮に、弁済を現実に提供をしたにもかかわらず、債権者が、金員の受領を拒絶をした場合、法務局にて「弁済供託」の手続をする必要があります。

・弁済又は弁済供託によって強制執行の原因となる債権が「事後的に消滅」したことを「異議事由」として、「請求異議の訴え」を申し立てます(なお、抵当権の実行としての不動産競売申立ての場合には、抵当権不成立や被担保債権の消滅を理由に「執行異議の訴え」が可能(民事執行法182条、11条、10条)。その際に,強制執行を停止させるために、併せて「強制執行停止」の申立を行う必要があります。

・なお,相手方債権者が、債務の本旨に従った弁済を現実に受領した場合には,同人から「領収証」の交付を求め、これを裁判所に提出します。そうすると、領収書は「執行停止文書」となるので,4週間に限り,強制執行の手続は一時停止することになります。 

・なお、抵当権実行による不動産競売事件に限定されますが、直ちに弁済はできない場合、支払の猶予を求めて、強制執行を止めるための方法もあります(民事調停規則6条1項但書)。具体的には、債務の弁済方法を協議するための民事調停の申立てをして、担保を立てさせ、調停が終了するまで調停の目的となった権利に関する民事執行の手続きを停止することを求めまることができます(民事調停規則6条)。

・民事調停申立てに伴う強制執行停止の申立ては、調停が成立しなかった場合には、それにより生じる損害(執行が停止されたことにより債権者に金利相当の損害)は債務者の負担となりますので、申立には注意が必要です。

【原審が仮執行宣言を付した場合】

・金銭の支払請求等の訴訟を提起をされ、第1審で敗訴(一部敗訴を含む)した場合、支払命令に加えて仮執行宣言が付されることがほとんどです。仮執行宣言は、判決確定前でも、さらには控訴した場合でも、いつでも強制執行をすることができる権利です。

・事業主の場合、預金の差し押さえをされると、多大な損失を招きますので、仮に、控訴審で逆転勝訴しても、その損失の回復は容易ではありません。そこで、相手方の強制執行を一時的に停止する制度が(控訴に伴う原審判決の仮執行宣言の)強制執行停止制度が設けられています。

・控訴に伴う強制執行停止決定申立の流れ

⑴ 控訴申立(民事訴訟法286条第1項)

⑵ 第1審裁判所に対し強制執行停止決定の申立(民事訴訟法404条1項3号、民事訴訟法404条1項)

・控訴申立とは別に委任状等が必要。

・控訴申立と同時期に強制執行停止決定申立をしない場合には、控訴裁判所に対し申立

⑶ 裁判所からの立担保命令(民事訴訟法403条第1項)

・担保金額は、通常、第1判決で認容された額の8割程度

⑷ 担保金供託(民事訴訟法405条)。

・別途、委任状等と資格証明書が必要

・担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所

⑸ 強制執行停止決定

・立担保命令を出した裁判所に供託書を持参

⑹ 強制執行停止決定を相手方に通知

・執行機関に対して、事前に強制執行停止決定を得た旨の上申書提出は実効性に疑問符

⑺ 控訴審で和解する場合には、担保取消に対する同意条項を入れる

⑻ 担保金を取戻し

・別途、委任状が必要

・担保取消しの同意条項があればスムーズ

【差押禁止債権の範囲変更の申立て(民事執行法153条)】

・給料又は退職金を差し押さえられた場合,差押禁止債権の範囲変更の申立て(民事執行法153条)をすることができます。支払禁止命令(民事執行法153条3項)がなされると,一定の期間,給料又は退職金の取立てをすることができません。

・国民年金等が年金受給者の銀行口座に振り込まれて預金債権となった場合,その法的性質は年金受給者の預金債権に変わり,執行裁判所は,当該預金債権について差押命令を発することができますが、差押禁止債権の範囲の変更の申立てがあった場合には,執行裁判所は,当該預金債権の原資となった国民年金等の債権の額,当該差押えに係る債務者及び債権者の生活の状況その他の事情を考慮して,差押命令の全部又は一部の取消しの裁判をすることができます(東京高裁平成22年4月19日決定)。